Q1. 自然派ワインって何ですか?
「定義はなく、人によって捉え方は違いますが、私たちは、有機栽培されたブドウを用い、自然酵母のみで発酵させ、醸造時に補糖や補酸といった味わいの調整を行わず、その上で飲み手に心地良さや感動を与えてくれるような魅力あるワインを”自然派ワイン”だと考えています。」
「自然派ワイン」とは規定や認証があるわけでもなく、厳密な定義は存在しません。自然環境を尊重した栽培を行い、醸造段階において可能な限り人為的な介入を避けるというのが一般的に語られる「自然派ワインとは?」への答えですが、その言葉が内包する範囲は広く、自然派ワインを語る人それぞれの恣意によって、微妙にニュアンスが変わってきます。実際、自然派ワインを代表するとされる造り手たちであっても、各々の造り方や理念、取組みは様々であって、画一的なレシピはありません。なので、これをしたから自然派ワインである、これをしたら自然派ワインではないといったような細目で分類し、定義付けをすることが非常に困難です。
そんな中、「自然派ワイン」というカテゴリ付け自体をマーケティングに便利な言葉の発明だとして批判したり、「本物の自然派ワイン」とそれ以外の「なんちゃって自然派ワイン」といった具合にさらに細かくカテゴライズしようとする動きも近年見られるようになりました。ある種の宗教戦争のような様相を呈しているのですが、このような状況のなかでも私たちが「自然派ワイン」という曖昧な言葉を用い続けるのには意図があります。それは、とあるワイン生産者が、とある意図を持ってワイン造りに取組み、あらゆるリスクを引き受けながらも私たちに感動を与えてくれるようなワインを生み出そうと取組む姿勢を何かしらの記号やアイコンをもって明確に飲み手である皆様にお伝えしたいという想いからです。つまり、「自然派ワイン」というのは「こうすればこういうワインができる」という「方法論」ではなく、造り手ひとりひとりが理想とするワインを生み出すための「方向性」を表す言葉であると私たちは考えています。
とは言うものの、私たちが使う「自然派ワイン」という言葉の曖昧さを明確にする必要はあるでしょう。私たちが、ワインのご紹介の中で「自然派」という言葉を用いる場合は、以下の条件を基本的に満たしています。
- 使用されるブドウが(認証取得の有無にかかわらず)有機栽培されている。
- 自然酵母による発酵を行い、補糖・補酸などの味わいの調整を行わない。
- 上記の条件を満たした上で、生み出されたワインが、飲み手に心地良さや感動を与えてくれる魅力を備えたものである。
この中でも、私たちが特に重視しているのが、「最終的に生み出されたワインが、飲み手にとって魅力的なものであるか」という点です。つまり、「有機栽培だから、自然酵母だから美味しい」といったことは考えていませんし、このようなスペックを重要だとも考えておりません。あくまで、ひとりの造り手が悩み、考え、行動した結果が、私たちの心に響いた時に、人と自然、人と大地が本当の意味で繋がるのではと考えています。
「自然派ワイン」という飲み物は本当に興味深い飲み物です。造り手たちが、自然の営みと格闘しながら、その土地からしか生みだすことができない純粋な味わいを追い求めた結果、なぜかその人の生き様や人柄が、ワインから感じられるようになります。この人柄を感じとれるワインがどのようにして生まれるのか、今後も少しずつご紹介していきたいと思います。
WORDS & PHOTOGRAPH JUN FUJIKI