「父が守り育てた大地を引き継いで」
シャンパーニュ地方最南端の地、オーブ県。幾人かの開拓者たちの手によって、いつの日かこの地がシャンパーニュの新たな聖地として評価される日が来るかもしれない。ランスを中心とした「伝統的な」シャンパーニュのヒエラルキーに対して信念とたゆまぬ努力で挑戦する「革新的な」若き生産者たち。もっともリスクを取りづらいシャンパーニュという地域にあって危険を顧みず果敢に挑戦する彼らのワインは、たしかに世界中で大きなうねりを引き起こし、感性を共有する多くのファンによって熱狂をもって受け入れられ始めています。
ブルゴーニュ地方との境界にほど近い、オーブ県 エッソワ村の外れに拠を構えるリュペール ルロワも次世代を担うシャンパーニュの造り手として、2009年にその歩みをはじめました。現在はエマニュエル ルロワとベネディクト リュペールの二人によって運営されているリュペール ルロワですが、その歴史の源流はベネディクトの父であるジェラール リュペールの時代にさかのぼります。父ジェラール リュペールは、そのキャリアを通じてブドウ栽培に専念し、生産したブドウを全て協同組合に販売して生計を立てていました。しかしながら、1970年代から畑の一部においてビオロジック栽培を採用し、年を追うごとにその面積を拡大していきます。1970年代といえば化学農薬全盛の時代であり、またシャンパーニュでは質よりも量を求められていた時代です。この時期にすでに、畑に向き合い、自然環境を尊重する栽培を心がけ、それを通じて質の高いブドウを生み出すべく努力を重ねていた稀有なブドウ栽培者でした。そんなジェラールの崇高な精神は、娘であるベネディクトにしっかりと受け継がれます。
ジェラールの引退に際して、教師という安定した職に就いていたベネディクトですが、その安定した職を離れ、ブドウ栽培者でありそして自らワインを手がけるワイン生産者でもある「ヴィニュロン」の道を歩み始めます。
「シャンパーニュと言えどワインの品質はすなわちブドウの品質であって、父が長年守り育ててきた畑だからこそ素晴らしいブドウが得られ、素晴らしいワインができるので。これまでの父の仕事には本当に感謝しているし、尊敬しています。」
そう語るベネディクトですが、彼女の代でもその挑戦は止まりません。さらなる飛躍の為に栽培にビオディナミを取り入れ、その土地だからこそ生まれるワインの表現を求めて、さらなる高みを目指しています。
そんな彼女たちが歩みを進める上で、転機となった出来事がありました。知人のシャンパーニュ生産者から「自然な」ワイン造りを志すならとジュラのピエール オヴェルノワの訪問を勧められたのです。オヴェルノワと言えばフランス自然派ワインの世界で、その礎を築いた伝説的な生産者として知られる人物なのですが、なんとベネディクトたちはその名前も存在も知らず、ただ勧められるがままに彼のもとを訪ねました。その突然の訪問客に対して、ピエールは多くの時間を割き、彼のワイン造りの哲学やテロワールの魅了をどうボトルに封じ込めるのかを熱っぽく語ってくれたといいます。
「あの伝説のオヴェルノワを知らずに訪ねたなんて、今となっては笑い話でしかないのですが。もし彼の事を知っていたら、あんな風に気軽に訪ねる事はできなかったかもしれませんね。」
これを機会に、ベネディクトたちは、オヴェルノワをワイン造りの父として敬い、シャンパーニュという土地での真実のワイン造りという大いなる挑戦がはじまります。実は彼女たちは、もうひとつの幸運にも恵まれます。ワイン造りの精神的支えがオヴェルノワであるとしたら、実質的な支えとなった人物がいました。それは、エッソワ村からわずか15kmほどという距離にあるビュキシエール シュール アルス村に居を構えるベルトラン ゴトロ(ヴェット エ ソルベ)その人です。物理的な距離も志も近いベルトランからも多くのインスピレーションとサポートを得て、ベネディクトたちは理想のワイン造りに突き進みます。
畑においては、ブドウの生態を尊重し、それぞれの区画や土壌の個性を素直に表現できるようにと一部ビオディナミのコンセプトを取り入れた自然な栽培を行います。例えば、畑の土を固めないためにと重量の軽いトラクターを用いたり、収穫したブドウにダメージやストレスを与えないように醸造所へと運ぶ工夫を重ねたりと土とブドウを尊重した栽培を行っています。醸造段階においては酸化防止剤となる亜硫酸の使用を抑えるよう努め、熟成段階においても同様に使用を避けます。また熟成中のワインへのストレスを最小限にとどめるためにと美しい木材やわらレンガなどを用いて新しいセラーも建設しました。そうしたあらゆる努力と工夫の結果、2013年ヴィンテージには熟成中のワインへの亜硫酸添加を行わずにワイン造りを行うことができるようになったと言います。ワイン造りにおける彼女たちのもうひとつの重要なこだわりは、それぞれのワインは土壌の特性ごと、個性の違う区画ごとにブルゴーニュ的なアプローチで別々に造り分けることです。そうすることによってその土地、その区画からしか生まれないオリジナリティのある風味を表現することを目指しています。
初のヴィンテージとなる2010は5,000本、2011年も5,000本、2012年には10,000本と少しずつ自分たちが育てたブドウで、自分たちのワインを造っているベネディクトとエマニュエル。彼女たちは間違いなくシャンパーニュのこれからの時代を切り拓いてくれる「革新的な」開拓者たちだと言えるでしょう。感度の高いシャトー ブリアン、セプティーム、ヴィヴァン、ノーマなどのヒップなレストランではすでに、彼女たちのワインが取り扱われはじめています。
Champagne Fosse-Grely / シャンパーニュ フォッス グリュリー
産地:フランス シャンパーニュ地方
品種:ピノノワール、シャルドネ
赤粘土主体の粘土石灰質土壌の区画に植わるピノノワールとシャルドネをブレンドして造られたキュヴェ。香りも味わいも非情にいきいきとしていて、それぞれの要素が伸びやかで柔らかさやふくらみのある果実味があります。と同時に凛とした雰囲気もあり、ある種の緊張感や硬質さもあります。ピアノが奏でる旋律を思い起こさせるような硬質さと暖かみを兼ね備えた味わい。さらに、一般的なシャンパーニュでは感じることの少ない、いくらでも飲み進める事ができる圧倒的な飲み心地の良さが最大の魅力と言えます。
ステンレスタンクで澱(おり)と一緒に6ヶ月ほど熟成。さらに2年ほどの瓶内熟成を経てドサージュ(瓶内の澱を取り除くデゴルジュマンの後の甘みの調整の為の糖分添加)なしで完成させます。
Champagne Fosse-Grely Autrement / シャンパーニュ フォッス グリュリー オートルモン
産地:フランス シャンパーニュ地方
品種:ピノノワール100%
「また別の」フォッス グリュリーと名付けられたこのキュヴェは、同区画のピノノワール100%で造られる特別なキュヴェ。ベネディクトとエマニュエルの二人がかねてより挑戦したかったというサンスフルのキュヴェで、一般的に使用される瓶詰め時の亜硫酸などが用いられていません。これは、デクラッセ(格下げ)のないシャンパーニュ地方では非常にリスクのあるワイン造りのアプローチですが、純粋さをとことん追求するリュペール ルロワにとって、避けて通ることができない道だったとも言えます。
他のキュヴェと比較すると色調もゴールドが強く、香りには栗などを想わせる香ばしいニュアンスがあります。口当たりもスムーズで、ピュアな果実味と甘味があり、表現力豊かな外向的なバランスです。テロワールのポテンシャルを信じ、それを引き出しきった結果、他のワインにない風格をしっかりと感じさせてくれます。
Champagne Les Cognaux /シャンパーニュ レ コニョー
産地:フランス シャンパーニュ地方
品種:ピノノワール 100%
灰色をした粘土が主体の粘土石灰質土壌の区画に植わるピノノワールで造られるキュヴェ。栗や胡桃を思わせるナッツ系の香ばしさが感じられ、木管楽器のような暖かみと柔らかさに満ちたワイン。下手な化粧っ気がなくすっぴん美人系の素朴で素直な味わい。飲み心地がとにかくスムーズで、グラスを重ねても全くひっかからないピュアさに満ちています。
ステンレスタンクと木樽の両方を用いて、澱(おり)と一緒に6ヶ月ほど熟成。さらに2年ほどの瓶内熟成を経てドサージュ(瓶内の澱を取り除くデゴルジュマンの後の甘みの調整の為の糖分添加)なしで完成させます。
Champagne Martin Fontaine / シャンパーニュ マルタン フォンテーヌ
産地:フランス シャンパーニュ地方
品種:シャルドネ 100%
白い石灰質主体の粘土石灰質土壌の区画に植わるシャルドネで造られるキュヴェ。栗っぽい香ばしさもほのかにありますが、透明感のあるみずみずしさも感じられバランスに優れた風味を持っています。伸びやかでいきいきとした味わいの中にも複雑味があり、大人びた雰囲気のワイン。余韻の品の良さや飲み疲れのしないピュアさがあり、圧倒的なまでの飲み心地の良さが最大の魅力。
木樽を用いて、澱(おり)と一緒に6ヶ月ほど熟成。さらに2年ほどの瓶内熟成を経てドサージュ(瓶内の澱を取り除くデゴルジュマンの後の甘みの調整の為の糖分添加)なしで完成させます。
Champagne Rose Saignee des Cognaux / シャンパーニュ ロゼ セニエ デ コニョー
産地:フランス シャンパーニュ地方
品種:ピノノワール 100%
灰色をした粘土が主体の粘土石灰質土壌の区画に植わるピノノワールで造られるキュヴェでブラン ド ノワールであるレ コニョーに対してセニエ法(赤ワインのように果皮と果汁を一定期間接触させ風味と色素を得る手法)で造られるロゼ。華やかな香りと鮮やかな色調から想像される以上にしっかりとドライな飲み口で、コントラストのはっきりとした味わい。硬質なミネラル感と品の良い酸、甘い雰囲気こそないもののワインに厚みを与えているいきいきとした果実味が特徴。グラスを重ねても飲み疲れのしない圧倒的な飲み心地が大きな魅力。
ステンレスタンクと木樽の両方を用いて、澱(おり)と一緒に6ヶ月ほど熟成。さらに2年ほどの瓶内熟成を経てドサージュ(瓶内の澱を取り除くデゴルジュマンの後の甘みの調整の為の糖分添加)なしで完成させます。