一歩一歩着実に、決して進化を止めない努力の人
ヴァランスとアヴィニヨンの中間、モンテリマールの街から西に20kmほど行ったところにジェローム ジュレのドメーヌはあります。アルデッシュ地区の南に位置するこの場所は、決して複雑なテロワールを備えた土地というわけではなく、ワイン産地としては外れのエリア。もともとkg単位いくらでブドウを協同組合に売ることで生計を立てるブドウ栽培者がほとんどだった地区です。そんな中で自家瓶詰めに挑戦し、しかも自然なスタイルのワイン造りに挑戦したジェローム ジュレ。2006年ヴィンテージのデビュー以来、年々進化を続けて素晴らしい品質のワインを送り出すようになりました。そして現在では、この地域を代表する人気生産者へと登りつめます。
実際、彼の仕事ぶりは目を見張るものがあります。かつて修道士たちが開墾した山の上にある畑。しかし何百年も放置され荒れ果てていたこの畑を、その畑に登る道から整備し、再び開墾し、ヴィオニエを植樹するという途方も無い作業を難なくこなします。整枝のために針金を張るために打つ杭は、山から切り倒した難腐性の樹木を自身で切り出して使用。ワインを醸す醸造所もプロの建築家顔負けのレベルのものを父と二人で建築。さらにはワインを熟成させるドーム型レンガ造りの熟成庫も自身で建てていきます。これらは、彼のワインの価格を考えれば非常に贅沢な設備ですが、それもすべて彼自身が作り上げてきたものだからこそ実現できていると言えます。そして、これらの労力や設備は当然ワインの品質に反映されていきます。
こうして生み出されるジェローム ジュレのワインは、シンプルな味わいの中にも「清らかさ」と「色気」が調和して存在する特異な味わいを備えており、彼にしか手がけることのできないしっかりとした個性を備えたワインとなります。そしてこの個性こそが、彼自身の膨大な仕事の積み重ねによってのみ生み出されるものであり、ジェローム ジュレのワインの最大の魅力であると言えます。
ジェローム ジュレの歴史を振り返ると、その発端となるのは、同地域の自然派ワイン生産者であるジル アゾーニ氏の存在です。ジェローム ジュレはかつて、ジル アゾーニ氏の下で研修をしており、この際に香り豊かでなめらかなアゾーニのワインに衝撃を受けて自然派ワインを志したと言います。その後、同じくこの地方のドメーヌ マゼルのジェラール ウストリック氏にも出会い、自然派ワインが何たるかを心に刻みます。その後、研修などを経て地元に戻った彼は、ブドウ栽培農家であった父親のいくらかの畑を引き継ぎ、組合にブドウを売る生活を始めます。その中でも、荒れた土地であった山間の畑を自らの手で開墾するなど栽培面積を広げていきます。自然派ワインの元詰めを目指しつつも、安定的に蔵の経営を行うためにもと当初は様々な可能性を模索します。自分の力で美味しい自然派ワインが造れるだろうか、そんな不安をも抱えつつ、2006年に組合から独立を果たし、ドメーヌ元詰めを開始します。
師事したジル アゾーニ、ジェラール ウストリックという二人の生産者もこの地の先鋭的存在ですが、ジェローム ジュレのワインからは、その二人とは異なる透明感、慎重さ、安定感、芯の強さ、優しさが備わっています。カリニャン、アリカンテ、シラー、グルナッシュ、カベルネソーヴィニヨン、ユニブラン、ヴィオニエ、シャルドネ、ソーヴィニヨンブランなどなど様々な品種を栽培し、そのそれぞれでアルデッシュの常識を覆す高品質なワインを生み出し続けています。
思い起こせば、私たちと彼との最初の出会いは2007年のディーヴ ブテイユという試飲会でした。スター級の造り手たちが多く参加しているこの試飲会でジル アゾーニのブースに立ち寄った時の事。当然そこにいるのがジル アゾーニ本人と思い込んで試飲をはじめたものの、そこにいたのは、ジル アゾーニ氏のブースを留守番していたジェローム ジュレでした。ジェローム ジュレは2006年に自然派ワイン造りに挑戦したばかりで、その時点では発酵中のワインのサンプルが2種類あるのみ。ジル アゾーニのワインをテイスティングした後にその2種類を飲ませてもらい、素朴ながらもピュアな味わいに心惹かれたのでした。その後、この偶然をきっかけとして取引が始まり、年を重ねるごとに進化を続けていったジェローム ジュレ。現在では名実ともにこの地域を代表する生産者となり、地域の若手生産者にとってのリーダー的存在となります。
現在では、彼の成功を追って、ドゥ テール、ロ マス ド レスカリダ、シルヴァン ボックなど、もともと協同組合にブドウを売るなどしていた栽培農家の新しい世代の造り手たちが自然派ワイン造りに挑戦していきます。そんな彼らをジェローム ジュレやジル アゾーニ、ジェラール ウトリックらが、ワイン造りの指導や販売先の紹介など地域コミュニティをあげてサポートをしています。その結果、アルデッシュ地区は自然派ワインの一大産地となり、ホットスポットとなったのです。
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