「生命の樹から落ちた運命の実」
現在スイスの西部にあるフリブール地方の小さな村、ル ムレ村を拠点にシードルを造るジャック ペリタズは、もともと植物・生物学の研究者でした。森の生態系などの研究を通じて、故郷の自然環境を保全し、生かしていく方法を常に考えていました。そんなジャックがとある運命的な出会いからシードルの生産者へと転向します。
ある日、村の外れを散策していた時、樹から完熟したリンゴがひとつ落ちて来ました。その樹は一切の農薬や化学肥料を施される事なく育っていた古い品種のリンゴの樹で、にも関わらずその実はほとんど利用されることなく樹になったままになっていました。そのリンゴの実を手にとったジャックは、自然や環境を守るという事を頭で考え続けるよりも、この利用されずにいる素晴らしいリンゴの実を生かす具体的な行動を起こす事ができないだろうかと考え、シードルの生産者となる事を決めたのです。
研究者としての仕事を続けながら2006年ごろから実験的にシードル造りを始め、自身の本拠地であるル ムレ村を中心に半径50kmにわたる範囲で、完全に自然な栽培をされているリンゴや洋なしの樹を探しだしては所有者と交渉して買い付け、シードルの原料としていきます。買い付けるリンゴや洋なしに関しては、樹齢の高い古い品種にこだわり、収穫に際しては果実が樹から自然に落ちるか、軽く樹を揺するだけで落ちるほど完熟したものだけを収穫します。そのため同じ樹であっても果実によって熟すスピードが異なる為に、何度も何度も同じ場所に収穫に通います。しかも一般的なブドウ畑とは異なり、ひとつの場所に数本しか樹が植えられていないような場所がほとんどで、これを半径50kmの範囲で繰り返すのですから、途方もない労力です。
こうして収穫されたリンゴや洋なしを圧搾し、補糖なしで自然酵母の働きのみで発酵させます。完熟した果実は酵母の力が強く、しっかりかつゆっくりと発酵が進むと言います。また完熟したリンゴはペクチンの含有量が多く、その働きで果汁が澄んだものになるとも言います。これを醸造中に幾度かのろ過を行い瓶詰め、瓶内での二次発酵を経て完成します。瓶詰め時の亜硫酸添加に関しては、キュヴェにより添加の有無を判断しています。
ジャックの目指すシードルのスタイルは、安定感のあるクリアさとナチュラルな味わいのバランスがとれているもの。いわばシードルの巨匠エリック ボルドレのような安定感がありつつもジュリアン フレモンのようなナチュラルな魅力を失わないという非常に難しいハードルを自身に課しています。そのハードルを多大な労力と丁寧な仕事で越え、唯一無二とも言える美しさとナチュラルさの両立したシードルを生み出すことに成功しました。
研究者として頭でっかちな自然保護を唱えるのでなく、落ちていく実に魂を吹き込んでいくという具体的な行動によって自然を守り、生かす。そんなジャックの想いが、ピュアでエレガントなシードルに実直に表れています。
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Cidre Raw Boskoop / シードル ロウ ボスコップ
産地:スイス
品種:リンゴ(ベレ ド ボスコップ)
このシードルに用いられているリンゴの品種は、1856 年にオランダで生まれたベレ ド ボスコップという品種です。現代の生食に適するように甘く品種改良されたリンゴとは異なり、より原種に近い品種となります。ベレ ド ボスコップの特徴としては、その酸度の高さ。他のリンゴ品種と比較して何倍ものビタミンCを備えていると言い、そのままでは食べづらいリンゴだとか。ところが不思議なことに、その酸度高いリンゴから果汁を得て、発酵させると、酸味が和らぎ、生食では感じられにくかった果実味や甘みを感じるようになります。まさにシードル造りに適した品種と言えます。
味わいは、すりおろしたリンゴのような爽快な香りとみずみずしい果実味、すっきりドライな飲み口でありつつほのかに柔らかなリンゴの甘みを感じます。アルコール度数も5%前後で、ドライな飲み口相まってと非常に軽快でストレス無く飲めるバランス。その雰囲気は、さながらベルギービールのようです。
泡立ちもしっかりしており、果実酒としての保ちも良いので、ビール代わりのアペリティフにも最高ですし、フリットなどのジャガイモ料理との相性は鉄板。またフォンデュなど溶けたチーズを使った料理や意外なところではサンドイッチやハンバーガーとの相性も抜群です。