「色褪せない 畑の芸術」

ロワール地方アンジュ地区でワイン造りを行うシリル・ル・モワンは、もともとパリで絨毯のセールスマンをしていました。しかし、より自然に近いところで生活したいという願いから、自然派ワインの草分け的存在であるフェルム・ド・サンソニエールのマルク・アンジェリを訪ね、彼の下でワイン造りを学びました。その後、このアンジュの地で自らのワイン造りをスタートさせ、荒削りながらもブドウの力に満ちた素晴らしい自然派ワインを造るようになりました。マルク・アンジェリのカーヴまで車で僅か10分ということもあり、しばしばお互いのワインを試飲するなどして、現在も研鑽を積んでいます。

シリル・ル・モワン氏を訪ねるとその繊細な人柄にまず驚かされます。多くのフランス人にありがちな陽気で楽観的なともすれば大雑把な性格とは違い、ひとつひとつの仕事や仕草が非常に丁寧で落ち着きがあり、神経質ともいえるほど綿密な考え方を持っています。「自然に近い生活」を目指してこの地に来たこともあってか、その生活も非常に前近代的です。テレビは天気予報しか見ず、家にある電化製品も必要最低限。食事も刺激の強いものや味わいの強いものを好まず、素材の素朴な旨みを生かしたものを好みます。余談ですが、サンソニエールの収穫時に知り合ったという奥様は韓国人。「たまにはキムチを食べたいのだけど、この人がね・・・。」と残念顔でした。また奥様をして「まるで19世紀の人かと思ったわ。」と言われてしまうシリル・ル・モワン氏ですが、その人柄はワイン造りにも如何なく発揮されており、素朴で滋味深い風味をもった旨みのあるワインを生み出しています。

シリル・ル・モワンでは、栽培において施肥を行わない「ビオロジック」を採用しており、畑には青々とした雑草が茂り、柔らかい健康的な土が広がっています。また所有している畑はどれも樹齢が高く、南向きの斜面という恵まれた環境から凝縮感の高いエキス分の強いブドウが得られます。彼が現在所有する畑は僅か2haほど(一部を同じロワールの生産者オリヴィエ・クザンから借りています)で、生産量は極僅かです。しかし、この広さが彼にとっては仕事を隅々まで行き渡らせる事のできる最大の広さだと言います。とはいえワイン造りで生計を立てるにはあまりにも小さい面積といえます。その上で彼は、常識を超えたレベルの収量制限を行っており、エキス分に富んだ非常にポテンシャルの高いブドウを栽培しています。

※ 一例を挙げると、一般的なボジョレーのガメイ種から造られるワインでおよそ50hl/haに対してシリル・ル・モワンでは20hl/ha。同じ畑の面積であれば、ボジョレーの半分以下のワインしか造れない計算となります。しかしながら、ワイン1本の単価が2倍となるわけではなく、あくまで品質追及のための努力と情熱の結晶といえます

また収量制限の方法も、リスクの低い夏季のヴァンダンジュ・ヴェール(摘房)ではなくより早い時期の芽かきや剪定によって行います。これは、リスクが高い上に経験と丁寧な仕事が要求される非常に難しい作業となります。こういった作業に限らず、畑での作業は全て人の手で行われています。畑を耕す際でさえ、トラクターを使用せず小さな耕耘機を駆使して全ての畑を耕していきます。まさに膨大な労力を費やして、高品質なブドウの栽培に努めているのです。

<栽培における哲学は?>
「ワイン造りの全てはブドウ畑で行われます。目的とすることは収穫量の少ないよく熟したブドウを得ることです。私はトラクターなどを使用せず、菜園を扱うような細やかな心配りを払いながらブドウの世話をしています。」

醸造においては、収穫したブドウを骨董品のような木製圧搾機で圧搾し、自然酵母によって自然と発酵が始まるのを待ちます。醸造中はSO2を使用せず、補糖や補酸といった人為的介入も行いません。発酵の進行も自然に委ねておりヴィンテージによっては1年以上も発酵を続けることがあります。夏をまたぐ熟成や瓶詰めのタイミングなどで若干のSO2を加えることがあります。

※亜硫酸の添加に関しては、発酵や熟成終了のタイミングや瓶詰めの季節・気温などのタイミングが合えば必要ないと考えているようです。ただ、彼のように資金や設備を持たない生産者がSO2を完全に添加しないのは、出荷までの管理の問題などで難しいようです。

<醸造における哲学は?>
「ワインには一切手を出さずに自然と出来上がるのを待つこと、硫黄をなるべく使用しないこと、フィルターもかけずに手作業で瓶詰めすること。」

<尊敬する生産者は?>
マルク・アンジェリ 「この人からブドウの木の手入れを学びました。」
ステファン・ベルナウドゥ 「ワインがとても素直で、品質に優れています。」
リシャール・ルロワ 「ワインが素直で質が高い上に、ワインのテイスターとしても優れています。」
ロラン・エルベル 「彼の赤ワインは他と比べ物にならないほど素晴らしい味わいです。」

<日本の皆さんへのメッセージ>
フランス人は「ワイン」そのものでは無く、「ワインのラベル」を気にしがちです。ですが、日本の方々は「ワイン」そのものを楽しんでいただけ、フランス人以上に「自然派ワイン」を理解していただいているので、非常に嬉しく思います。私のワインは、ただ飲むだけでなく、食事と一緒に楽しんでいただければより一層美味しく感じられると思います。是非、お楽しみ下さい。

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ANJOU BLANC “LES GAINS DE MALIGNE” 2006

シュナンブラン100%。穏やかな南向きの斜面に位置する区画で平均樹齢が45年と非常に高いのが特徴。収穫は全て手摘みで行われ、ブドウの熟度に応じて2度にわけて収穫することもあります。収穫量は僅か25hl/haで、完熟したブドウから造られます。圧搾後、澱下げを行わず木樽で発酵させるため非常に旨みの強い味わいに仕上がります。その後220Lの5年樽にて熟成をさせ12ヶ月ほどで瓶詰めされます。 亜硫酸は、マロラクティック発酵後と瓶詰め前に極少量を使用。味わいは、白桃や柑橘系の熟した果実の旨みがぐっと詰まっており、アンジュのシュナンブランらしい、爽快感もあります。ボリュームはしっかりとしていますが、残糖感もなくクリアでふくよかな果実味が楽しめます。

VDT “SCHISTES” 2006

僅か0.3haの畑、樹齢35年のソーヴィニヨンブランで、土壌はキュヴェ名の通りのシストで、硬質なミネラル感をワインに与えています。この畑はオリヴィエ・クザンから借りているもので、いわば血統書付きの自然派畑と言えます。収穫は、当然ながら手摘みで、あらゆる畑での仕事を経て自然に収量を27hl/haまで落としています。醸造は、圧搾した果汁は澱下げせずに直接木樽に入れ、自然酵母で発酵。圧搾後の澱下げをしないため旨みが強くなります。樽は通常よりやや大きめの400Lの6年樽を使用し、発酵と熟成をあわせて12ヶ月。期間中は、バトナージュも、澱引きもしません。亜硫酸は、瓶詰め前に極少量を使用。口に含むと厚みのある果実味がまず感じられ、その奥にソーヴィニヨンブランらしい柑橘系のニュアンスやフルーツを感じます。しかし、すぐにたっぷりミネラルが口の中に広がり、硬質で清涼感のある味わいとなります。このワインの驚くべき点は、ブドウのポテンシャルの高さで、抜栓後もかなりの時間その魅力を維持しています。ワイン名の「シスト」はブドウ品種の風味より、土壌成分のシストのほうが味わいに強い特徴を与えている為、名付けられました。

VDT “GROLLE NOIRE” 2006 

平均樹齢65年にも達するグロロー・ノワール100%。ワイン名の「グロル」地元の古いフランス語で「カラス」を意味しグロロー・ノワールの色調が似ている事からこの名が付けられました。グロローはロゼワインで無ければアンジュのアペラシオンを取得することができませんが、シリル・ル・モワン氏はこの品種の濃密でスパイシーな風味をいかすため赤ワインとしてリリースしています。収穫量は34hl/haで全て手摘みにて収穫。マセラシオンの間に足や手で優しくマッサージするようにピジャージュを行い、あくまで自然な果実の旨みを引きだします。その後400Lの5年樽にて熟成され瓶詰めされます。亜硫酸はマロラクティック発酵後に極少量を使用。グラスに注ぐと黒に近い紫の色調で、香りにもぐっと重い凝縮したニュアンスを感じます。スパイスのような香ばしい風味と花のエキスを凝縮させたフローラルな風味があり、フレッシュさと完熟したブドウの旨みの両方がバランス良く楽しめます。余計な飾り付けの無いピュアなエキス分が楽しめる実直なシリル氏そのものの味わいです。

VDT “LE PONGE” 2006

平均樹齢50年のガメイ100%。西向きの斜面に位置する0.3haほどの畑で砂利の多い土壌。収穫量が僅か20hl/haという驚くべき水準で、アンジュにあってここまでの低収量のガメイは大変珍しい。実際テイスティングするとかなり厚み、タンニン、酸、骨格があり、およそガメイとは似つかわしくない味わいです。醸造は、まず房丸ごとを800Lのステンレスタンクに入れて、自然酵母によって発酵。マセラシオンの間は、手や足で優しくピジャージュする。熟成は220Lの5年樽に移し、澱引きを行わずに静かに行う。亜硫酸は、2006年に関しては瓶詰めまで無添加。味わいは、まず強靱なタンニンと果実味の強さが感じられます。その後にスパン!と抜ける鮮やかなフルーツのフレーバーが感じられ、このワインが、ガメイであることを思い出させてくれます。もっとも、緩い味わいのガメイとは全く正反対の硬派な印象で、長期の熟成に耐えれるだけのポテンシャルを感じます。

ANJOU ROUGE “LE PIN PERDU” 2006

西向きの斜面に位置する0.3haほどの畑で平均樹齢7年の若木のカベルネ・ソーヴィニヨン100%。樹齢の若い木ながら収穫量は18hl/haという少なさでボルドーの1級シャトーの半分以下という水準です。凝縮感と骨格のしっかりとした味わいながら、清涼感や飲み心地のよさもあり、力強さと繊細さを併せ持ったワインです。熟したベリーの風味が豊かで、酸と果実味のバランスの良い秀逸な味わい。醸造は、まず房丸ごとを800Lのステンレスタンクに入れて、自然酵母によって発酵。熟成は400Lの6年樽に移し、澱引きを行わずに静かに行います。亜硫酸は、2006年に関しては瓶詰めまで無添加。いわゆるカベルネ・ソーヴィニヨンのイメージとは全く違う、繊細さと力強さに満ちた新しいワインで、飲む人に心地よい喜びをもたらしてくれます。

VDT “LE BOIS DU GLAND” 2006

南向きの丘の上部に位置する僅か0.1haの畑から収穫されるカベルネ・ソーヴィニヨン100%のキュヴェで平均樹齢は50年(2006年は樹齢80年のヴィエイユ・ヴィーニュが50%加わっている)。粘土質が少なく砂の多い土壌のため水捌けが良いのが特徴です。完熟を待って収穫するため場合によっては2回にわけての収穫を行います。その結果15hl/haという高い凝縮度を誇るブドウが得られます。その完熟したブドウを房丸ごとステンレスタンクに入れて発酵させ、足及び手で優しく丁寧にピジャージュします。熟成は220Lの3年樽を使用し14ヶ月ほど。その間澱引きなどは行わずに静かにワインが育つのを待ちます。 味わいは、熟れたカシスやワイルドベリーの風味があり、厚みのある骨格と隙のない繊細なタンニンが印象的です。力強さをしっかりと感じる一方で、柔らかなタッチの口当たりと余韻に広がる鮮やかな果実味が心地よいバランスの良い味わいです。「ル・ボワ・デュ・グラン」は畑の傍らに位置する「ミズナラの森」に由来します。

VDT “LA GRAVELLE” 2005 sold out

オリヴィエ・クザン氏から借りている平均樹齢50年の畑のカベルネ・フラン100%。「ラ・グラヴェル」はこの畑の区画名。収穫は全て手摘みで行い、その収穫量はなんと!13hl/haという少なさ。このどこまでも凝縮したブドウを房ごとステンレスタンクに入れて発酵させ、足や手で優しくマッサージするようにピジャージュします。その後400Lの5年樽にて熟成され瓶詰めされます。 味わいは、カベルネ・フランの特徴と言われるピーマンなどの青臭さは無く、むしろ煮詰めたフルーツのような甘酸っぱい香味が楽しめます。カベルネ・フランらしい骨格と厚みを備えながら、シルキーでしなやかな舌触りがあり今までにないカベルネ・フランの魅力が楽しめます。


   
  シリル・ル・モワン氏 古木の根元から生えた新枝をいかすルセパージュを採用 農薬を使用する畑(左)とシリル・ル・モワン氏のふかふかの畑(右)  
   
  カーヴと住まいはこの地区のシャトーの一部を間借り 剪定ばさみとシリル・ル・モワン氏 木製圧搾機、使用する際には徹底的に洗浄される